◆◆◆◆◆骨董魔術論◆◆◆◆◆

■ 玩 具 屋 探 偵   ま ぼ ろ し 日 記 (2)  

「幻」を追っている。「幻」を捕まえること、記録することが、僕のワークだ。そして僕の毎日だ。どんな期待にも応えようと思うが、そうはいかない。誠実でいることと、ものの獲得とは結びつかない。なぜならそれが古物の公明正大さだからだ。望んでいても、手には入らない。それで諦めるくらいなら、最初からアンティックになど手を染めなきゃいい。古物は公平だ。どんなに望んでいても、手に入らない。今時こんな世界があるだろうか。古物からの贈り物、それは「絶対の公平さ」だ。ここの奥深さが短気なマニアには解らない。絶対の公平さだ。絶対の明確さだ。それは……。
汗をひどくかいていた。うなされていたのかも知れない。ときどき経験する。ハンティング旅行の時なんどかある。寝つかれない。リピートのこわれたノイジーな夢だ。
まだ夜中だ。カーテンを開けてみる。駐車場のむこうに続くのは、昨日失敗した街だ。攻略しそこなった街だ。昭和の暗い豆電球で数珠を作ったような夜景だ。夜景なのに薄暗い。夜景なのに低い。高層の建物はホテルだけだからなのか。 
突然、灯をみて魚業の地引き網を思い出す。建物は魚。ネオン、街灯、自動車のライト、信号機の点滅、これらは遠浅の路上に引き上げられた網。上から眺めれば、蛍光塗料を塗った網のよう。 
そういえば富山湾のホタルイカは発光するもんな。 
明日再チャレンジ。混濁のうちに再び眠る……。 
一万三千五百回もの一万三千五百回めの、名づけようもない朝がきた。越の国の攻略には難儀する。山沿いを試みる。 
車を置いて、歩いてみる。ふるいものの心搏数が高くて、どうも捕獲されてしまうようだ。街の両サイドの木造家屋の木の匂い、旧街道のような商店街、いつのまにか使われなくなった井戸のような細い道。 直角の角を曲がるといきなりショーウィンドーのマネキン人形と視線があった。木造三階建ての家と対面した。洋品店のようだ。奥でミシンを踏んでいる人影。 
帰りぎわに見つけたたった一軒あったプラモデル屋は、シャッターは錆び、窓は割れ、壁にはひびが何本も入り、草は生え茂り、プラモデルの箱だけでもせめてないかと裏に回ってみれば、農機具が打ち棄てられて積み上げられていた。 
そっとしておくべきなのだろうか。それとも権利者を徹底的に捜し出して、シャッターを開けてもらって、中のものを見せてもらうべきなのだろうか。どれほど時間をかけても、何もないとしても。 
東京から遠い距離であればあるほど、難物物件のジャッジは悩ましい。考古学的発掘調査ならば、行動にうつるだろう。骨董屋ならば駆けずり回るだろう。僕ならば、匂いがすれば踏み込むだろう。でも時々そのままのときがある。淡泊なのだろうか。いや違う。場合によっては、世に出さないほうがいいから。それほど僕は傲慢ではない。すべてを取り仕切らない方がいい。古いものすべてをこちらから。 
街を自分のペースで移動するには、瀬戸物やにはいるか、靴屋にはいる。それが僕のリズム。おもちゃ屋で戦果の上がらないとき、疲労が車を急がせる。正体不明の雑貨屋や古色蒼然の文房具屋をすっ飛ばしてしまう。
曖昧模糊とした下駄屋さんがあった。 
店の壁にアトムと遊星仮面のサンダルのポスターが貼ってあった。紙が酸化していて、ボロボロ。画鋲をとったらその周辺が、粉末になった。
木のガラスケースの中は、河川敷の放置自動車の様相。ズック、スリッパ、ゲタが日陰をつくっていた。鉄人28号の下駄が、下の下からでてきた。
ここの親父さんは人物だった。僕が在庫の有無を尋ねると、親父さんはこう諭した。
「あるものはある。ないものはない。」と。
道に迷ったら、電気屋さんで道をきくのがいい。ついでに、ナショナル坊ややソニー坊やのマスコット人形があるかも。ここには、店頭用の大きなナショナル坊やがあったが。「亡くなった主人の形見ですから」と断られれば、さすがにそれ以上交渉できなかった。
道は信用できない。国道や県道に並行してはしる商店街が存在するから。そろそろなんかありそうだな、という勘。車を停めて、一歩踏み出してみる。
そこにあるのは、まぎれもなく昭和の商店街。路地裏イオンの匂い。一軒二軒の商店だけではつくれやしない。三十年はここにある街。繁栄と衰退とを表現してきた街。疲れてしまって、時に運命を委ねてしまった街。
時とのロマンスに破れてしまった街を、ここでも僕は目撃した。
旅人の僕にはどうしようもない。滅びゆく運命の街を歌うだけだ。そうでもしなければ、噂にすらならない街なのだから。
そして彼らの幸福の宴の証拠として、僅かながらの品々を持ちかえることにしよう。そして安らかな眠りを祈ろう。
その店は、入った時から、視線をあびるやりにくい店だった。店の中だけでも、なにか残っていそうな予感がした。
自分のペースにもちこむしかない。 
僕の流儀は一つ、間合いをはずす。動作をゆっくりする。わざとゆっくりしやべる。 もう一つは、まず買うこと。間髪をいれずに。
あとは頃合を見計らっての総仕上げかな。手を突っ込んでみる、ここが肝心の花である。 店の中央にある古すぎる木のケースの中が、泥流化現象をおこしているのが、一目瞭然。 
お金を払いながら、「ちょっと待って」のタイミングで、開けて、引っ張りだす。 いたずらっ子のすばしっこさ。 中からは、まず奇妙なロボットのハンカチはでてくるし、お菓子の景品でもらえた「宇宙エース」のコインホルダーがまるごと一式。 それにかわった女の子人形もでてきた。ピンキーとキラーズのピンキー人形だった。お腹を強くしてやると、ピューと口笛がして、シルクハットが飛び上がる。すばらしい。 
翌朝、最大目的地のおもちゃ屋さんを約束どおり訪ねた。若社長の運転で、倉庫まで行った。仮面ライダーの人形をひとやま買った。少しまけてもらった。車に積み込んだ。事務的な会話に終始した。それもたまにはいいだろう。 
車のクーラーが故障した。やりのこしたことが、あれこれ浮かぶ。ペコちゃんの顔、グリコのオマケなどなど。窓を少し開け、夏の北陸道を走った。夕刻の日本海。恐いくらいの雨が、フロントガラスを遮断する。雷の集中攻撃。窓を閉めないと、雨は吹き込むし、デフが使えないので、視界不良だし。二重苦。まいった。 
おもちゃの神様は僕にとことん楽をさせてくれないようだ。


[愛すべきおもちゃ探しの教訓]
●バイパスにけちらされたか玩具屋は
●また来れぬ異国の空の玩具屋さん
●また来たら店があるのか玩具屋さん
●埃まで持って帰れと玩具屋さん
●地図ひろげ右往左往のハンティング
●銭よりも真心つかえハンティング


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